倉庫番の歴史には伝説ともいうべき倉庫職人達がいる。
キラ星のごとく才能を見せた彼らのことを私は決して忘れない。
すでに30年以上経った今、彼らはどのようにしておられるのか。 
その多くは会ったことも無い人たちだ。
彼らの作った倉庫面とそのタイトルが唯一の接点だったが、そこから伝わる人間性によって彼らは私の古い友人であり、かけがえの無い同志だと思っている。 
思い出の酒場があるとしたら、夜更けに一人、また一人と集まるに違い無い。
『やあ、いまどうしている?』

-----------------------------------------
そんな、まだ見ぬ伝説の友人達を紹介したいと思う。

彼抜きでは語れない伝説の倉庫職人Y・S氏。
彼を語らずして倉庫番の歴史は語れない。
彼の独創的な発想で作った倉庫は、いまでも基本的なスタイルとして引き継がれている。
特に、規則正しく交互に並ぶ「市松面」や、延々と荷物を動かし続けないといけない「巡礼シリーズ」など、彼がいなかったら生まれてないだろう。
そして、大人のタイトルとウィットの効いたメッセージは語り尽くせない魅力だ。
ラグリマ
住職だったY・M氏。
近かったこともあり、面を作ったからと突然の訪問。
バンダナの似合う彼は住職。
それ以来、親しくお付き合いをさせていただいた。
私の父親の葬儀で見送ってくれたのも彼だ。
彼は、なにしろ量産タイプでいつも数十面を作って持ってくる。
量産型にありがちで一見緩い部分もあるのだが、実はそれが罠だったりする。
無駄な部分で安心させておいて、罠にはめるのだ。
それが大らかな性質からか、周到に計算しながらとぼけているのか。
今でも判らずにいる。
代表作「取るに足らない相手」のように、多方向から荷物を入れないと片付かない面が彼の真骨頂だ。
取るに足らない
伝説の職人達でさえ一目置く完璧な職人M・I氏。
彼こそまさしく天才と呼ぶべき人物で、多くのファンを苦しめた。
謎の人物なのだが、難易度に対する取り組み方は半端では無い。
彼が作品を送ってくる面の描き方などからその几帳面さが伺え、A型の私にはとても心地がよい。
最高難度に数えられる、彼の「倉庫番の総攻撃」など全国で何人がクリアしたのだろうか?
今でも心配になるのである。
総攻撃
若き天才倉庫職人のH・K氏。
当時、高校生だった彼は授業中にも関わらず面を作って投稿してくれた。
彼の投稿用紙の余白には語り尽くせないメッセージが書かれてあり、それを読むのがスタッフの楽しみでもあった。そこに授業中であるとの告白も楽しい思い出だ。
その上彼は大変な読書家で用紙の隅に、時には裏にまで書評を書いていた。
特にミステリーが多かったように記憶しているのも、私と本の好みが近かったからかもしれない。
彼の本好きはコメントにも多く見受けられるので、きっと楽しんでもらえるだろう。
彼の推理小説好きは作る面にも表れている。
特に「最後の悪あがき短編」シリーズは珠玉の小品としてファンが多い。
悪あがき
忘れてはならない倉庫職人、エレガントな理論派H・Y氏。
彼の論理的に考えられた面は、倉庫の形といい荷物の配置といい無駄がなく美しい。
私の敬愛する田中潤司先生の言葉を借りれば、美しい面をエレガントに解くのが倉庫番の理想というあるべき姿を彼は面作りで具現しているのだ。
面を見て楽しみ、解いて楽しむ。
代表作「あやかとさとみ」のコメントから、姪っ子を可愛がる人物像が伝わって来る。
おそらく今は、そのあやかさんとさとみさんも家庭を持っておられることだろう。
この、まだ見ぬ友人はいまでもエレガントに過ごされているのだろうか。
あやかとさとみ
他にも、
卍シリーズでエンジニアらしい閃きを見せたM・T氏。
アカデミックなアプローチで倉庫番の論文を書いたY・M氏。
多くの荷物とギミックを駆使した巨大面でスタッフさえ悩ませたT・A氏。
私の愛すべき倉庫職人達は他にも枚挙にいとまが無い。
彼らの紹介はまた次の機会に譲ることにしよう。
-----------------------------------------

ガチャ。
またひとり、まだ見ぬ旧友が思い出の酒場に来たようだ。
『やあ。初めまして』
さあ、今夜はクリスマス。
30年の思い出を語り尽くそうじゃあないか。