船を待つ男
波止場には多くの物語がある。
悲しい事も嬉しい事も、遠い潮の香りと共に刻み込まれている。
この波止場自体がスターだった頃もあった。
それがどうしたというのだ。
新しい波止場には現実しかなく、古い波止場には思い出しかない。
波止場が悲しいのは、そこが別れの場所だからではなく、
いつか忘れ去られる場所だから。
夕凪の後、はじめて吹く風は、
朝、目覚めた老人の安堵とも後悔ともつかない溜息のように
人の心にのしかかる。
その波止場の一角に男は座っていた。
何かを待っているようであり、何かを見守っているようでもあった。
彼の目には、悲しみも喜びも絶望も希望も無かった。
ただ、傍らに寄り添う愛犬とじっと沖を見ていた。
雨の日も風の日も座っていた。
「もう何年になるか。最初は希望をもって待っていた」
「それが失望から絶望へと変わったがそれでもあきらめられんかった」
「何を待ってたんだと?」
「何を待っていたのか・・・いまではどうでもいいし、もうどうしようもない」
「待つこととは、期待すれば苦痛だが、絶望には安らぎを与えてくれる」
夕暮れ時、沖からうみねこの鳴く声。
遠くでトランペットの曲がもの悲しく流れている。
遠くでトランペットの曲がもの悲しく流れている。
来るはずのない船を待ってMr.ロングホーンと愛犬ズーは
今日も波止場で沖を見ていた。
今日も波止場で沖を見ていた。
そしてあたりがしっとりと夜の帷に包まれる頃、
彼はよっこらしょと腰を上げ、どこかに消えて行く。
彼はよっこらしょと腰を上げ、どこかに消えて行く。
「人は何かを待っている。それぞれのやり方でな。君は何を待っとるのかね・・」
シナリオ Chapter 1(ステージ8「船を待つ男」)
1、港の倉庫の中。倉庫の窓がズームアップする。
2、窓から外戸にピントが合う。
Mr.ロングホーンが愛犬とともに沖を見つめて座っている。
Mr.ロングホーンが愛犬とともに沖を見つめて座っている。
3、夕暮れにMr.ロングホーンと愛犬は赤く染まり、影は後ろに長く延びている。
海猫の鳴き声が聞こえる。
海猫の鳴き声が聞こえる。
4、地面のショット。誰かの影が画面に入ってくる。
5、愛犬ズーが何かに気付いてそちらに向く。Mr.ロングホーンはまだ沖を見ている。
ラ ビ「こんにちは。ここに座ってもいいですか」
ロング「ああ」
ラ ビ「海からの風が気持ちいいです」
ロング「もうすぐ夕凪だ。海猫が騒いでるだろう・・・」
ラ ビ「ゆうなぎ?」
ロング「昼のうちは風は海から陸へ吹くが、夜になると今度は陸から海へと風向きが
変わる。その風向きが変わる少しの間、風が吹かなくなるんだ」
変わる。その風向きが変わる少しの間、風が吹かなくなるんだ」
ラ ビ「それをゆうなぎっていうんですか?」
ロング「ああ、朝と夕方の2回。それぞれ朝凪、夕凪ってわけだ」
ラ ビ「あ、ほんとうだ。風が止んだ」
ロング「一日の内でこのときがほっとする。風が凪いでいるつかの間、漁師も船員も
海猫達も港全体がほっと力を抜き一息入れるんだ」
海猫達も港全体がほっと力を抜き一息入れるんだ」
ラ ビ「うん。そんな気がします」
ロング「大昔、船がまだ帆船だったころは凪の時には、まるで時が止まったように荒
くれの船乗りたちもじっと息を殺し風が吹くのを待ったにちがいない」
くれの船乗りたちもじっと息を殺し風が吹くのを待ったにちがいない」
ラ ビ「船に乗っていたんですか」
ロング「若い頃にな」
ラ ビ「遠い国へも行った?」
ロング「ああ、世界中をまわった」
ラ ビ「いいなあ。ぼくはまだ遠いところへ行ったことがないんです。ずっと歩いて
ここまできました。船で海を渡るってどんな感じですか?」
ここまできました。船で海を渡るってどんな感じですか?」
ロング「そうだな。毎日、毎日見渡す限りの大海原。船のまわりはぐるっと水平線しか
見えない日が何日も続くんだ」
見えない日が何日も続くんだ」
ラ ビ「ふーん。まわりが水平線だったら、どうやってまっすぐ進むんですか?」
ロング「昔なら昼は太陽、夜は星の位置を見ながら進んだんだろうが、今はコンパスが
あるから海図の通り進める」
あるから海図の通り進める」
ラ ビ「この海のずっと向こうに、ぼくの知らない言葉を話す人達の国や南の島がある
なんてとっても不思議です」
なんてとっても不思議です」
ロング「わしはここと同じような港町で生まれたんだ。親父は漁師だった。毎夜、波の
音を聞きながら遠く海の向こうへ思いを馳せていた。目に浮かぶのは本の挿し
絵にあった南の島とアフリカ大陸。だから船に乗れる歳になるとすぐ船員にな
った。14の時だ。もっとも外国航路の貨物船になんとか潜り込めたのは16にな
る年だった」
音を聞きながら遠く海の向こうへ思いを馳せていた。目に浮かぶのは本の挿し
絵にあった南の島とアフリカ大陸。だから船に乗れる歳になるとすぐ船員にな
った。14の時だ。もっとも外国航路の貨物船になんとか潜り込めたのは16にな
る年だった」
ラ ビ「そうして世界中をまわって・・・」
ロング「ああ、それは面白かった。一度出ると港々を辿りながら荷物を下ろしたり載せ
たり・・・半年は帰らないんだ」
たり・・・半年は帰らないんだ」
ラ ビ「いいなあ」
ロング「特にわしの乗った船は、個人の貿易会社がやっていたので、儲かりそうな貨物
を港で買い込むんだ。逆に乗せている品は高い値で売れる国で売りさばく。
まあ、多少の危険はあったがね」
を港で買い込むんだ。逆に乗せている品は高い値で売れる国で売りさばく。
まあ、多少の危険はあったがね」
ラ ビ「かっこいいなぁ」
ロング「そんな船だから若くても潜り込めたんだがね。儲かった時はその場でボーナス
だ。それこそ本にあるような船乗り稼業だった・・・おや、もうこんなに暗く
なって」
だ。それこそ本にあるような船乗り稼業だった・・・おや、もうこんなに暗く
なって」
ラ ビ「また明日来ます。聞かせてください」
ロング「ああ、またな。さあズーよ帰ろうか」
6、Mr.ロングホーンはよっこらしょと腰を上げる。愛犬ズーも彼に合わせるように立ち
上がり歩き出す。
上がり歩き出す。
7、後ろ姿が闇に溶けて行く。
8、そのまま、画面がフェードアウトして、Chapter 1の終了シークエンスが表示される。
Chapter 2(12/23)へつづく。
補足説明。
「究極の倉庫番」を知らない人のための補足です。
この作品で、主人公のラビくんは人形です。
代々伝わる人形師のおじいさんによって作られました。
おじいさんの家系は、人形に命を吹き込むことができる能力がありました。
おじいさんはその力を永らく封印していたのですが、ふと気が緩んでしまい作りかけ
のラビに命を与えてしまいました。
しかし所詮は木でできた人形、そう長くは生きられません。
昔、おじいさんの先祖が作った人形たちは戦に狩り出される消耗品でした。
それが不憫で永らく能力を封印していたおじいさんでしたが、後悔しても後の祭り。
希望に目を輝かせるラビに、真実を告げられなかったおじいさんは、世間で多くの事
を見聞きし学べば、お前も人間になれると嘘を吐いてしまいます。
短い人生なら、せめて多くを見せてやろうという親心でした。
そうしてラビくんはアルバイトをしながら旅をすることになりました。
人間になれることを信じて・・・。
Chapter 2(12/23)へつづく。
補足説明。
「究極の倉庫番」を知らない人のための補足です。
この作品で、主人公のラビくんは人形です。
代々伝わる人形師のおじいさんによって作られました。
おじいさんの家系は、人形に命を吹き込むことができる能力がありました。
おじいさんはその力を永らく封印していたのですが、ふと気が緩んでしまい作りかけ
のラビに命を与えてしまいました。
しかし所詮は木でできた人形、そう長くは生きられません。
昔、おじいさんの先祖が作った人形たちは戦に狩り出される消耗品でした。
それが不憫で永らく能力を封印していたおじいさんでしたが、後悔しても後の祭り。
希望に目を輝かせるラビに、真実を告げられなかったおじいさんは、世間で多くの事
を見聞きし学べば、お前も人間になれると嘘を吐いてしまいます。
短い人生なら、せめて多くを見せてやろうという親心でした。
そうしてラビくんはアルバイトをしながら旅をすることになりました。
人間になれることを信じて・・・。
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