日々、倉庫番に悩まされながら。
日々、より多くの人を悩ませる倉庫を作り続ける。
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荷物

船を待つ男
 
シナリオ Chapter 4(ステージ8「船を待つ男」)
1、フェードイン。沖からのショット。カメラは遠くから、Mr.ロングホーンと愛犬が
  いつものように並んで座っているを映している。
2、Mr.ロングホーンの声でナレーションのように話が始まる。同時にカメラは沖から
  彼らに向かって移動を始め、そのままワンショットで近く。
3、Mr.ロングホーンと愛犬を回り込むようにアップ。
  シワが刻まれた横顔。潮風に傷んだ髪がわずか風に揺れている。物想いに耽るよう
  にじっと沖を見つめて動かない。
4、しばらくしてトランペットの第2のテーマ曲が重なるように流れてくる。


ロング「女はいつまでたっても来なかった。さすがに3日目には自分の馬鹿さ加減を
    笑った。わたしの心を知ってか、女を待っていた3日間というもの雨も降り
    続いていた。その時、先輩の忠告もつらい体験談なのだとはじめて理解した。
    しかし、わたしにとって本当につらいことはその事ではなかった・・・」

ロング「わたしは船を待ちながら船長の処置に感謝していた。と同時に、たまたま今
    回特別な予定で船が一度引き返し、再びこの港へ寄れることの幸運を噛み締
    めていた。10分・・・30分・・・しかし船もまた予定の時間が来ても姿
    を見せなかった」

ロング「心配になって頭の中で海図をたどってみた。その季節は強い偏西風が吹くの
    で、なるたけ風に逆らわないように東へ東へと船を進めるのが普通だった。
    この時期、いつ偏西風が嵐になるか分からないのと、高波が出やすいことも
    あって注意が必要だった。そこまで考えた時、ふとこの3日間降り続いてい
    る雨が気になった」

ロング「船乗りの言い伝えが正しいかどうかは知らないし、海が嫉妬するかどうかも
    分からない。だが船は2度と港へ着くことはなかった。人生を共にした仲間
    達は、船と共になんの前触れもなく海の底へ帰って行った・・・」

ロング「わたしは、どうしようもなかった。わたしの手からこぼれていった2つの
    ささやかな人生。元々そのどちらを選ぶにしても後悔が残ることは覚悟の上
    の選択肢だったにも関わらず、そのどちらもこの手には残らなかった。
    私から去って行ったひとつめの選択肢を考えた時、もう帰って来ない確信が
    欲しかった。
    私から去っていったもう一つの選択肢を考えた時、もう帰って来ない確信は
    欲しくなかった。
    そして、私はそのふたつの耐えられそうにもない絶望に対して妥協案を見出
    した。それはあの同じ場所で待ち続けること。
    期待して待つのは苦痛でしかないが、絶望して待つなら安らぎになる。私は
    心を石にして待ち続けた」

5、第2のテーマ曲が終わり、一時の余韻をおいてから、深い藍夜の静寂にレディー・
  ビーの歌が遠くから聞こえてくる。
6、ロングのナレーションは、ラビのその後を想いつつ、これからの自分を語る。

ロング「わたしの絶望もいまでは風化し、こう思えるようになった。海は嫉妬深い女
    ではなく、情の深い女ではなかったのか?
    今となって言えることは、情け深い海によってもたらされた三番目の選択肢
    は私自身が生き残れる僅かな可能性だったのかも知れない」

ロング「わたしはこの小さな人形の友人のおかげで、再び自分の人生に漕ぎ出せるよ
    うな気がする。彼のその後の消息は知らないが、今頃どこかで第二、第三の
    ロングホーンの心を癒しているに違いない・・・」
ラビ
7、しばらく思いにふけるように佇むMr.ロングホーン。
8、そのまま姿が闇に溶けて行く。
9、画面がフェードアウトして、Chapter 4の終了シークエンスが表示される。

 ステージ8「船を待つ男」了

お知らせ。
「究極の倉庫番」未発表シナリオ〜船を待つ男〜はいかがでしたか?
ラビくんはとうとう現れませんでしたね。
何か来ることができない理由があったのでしょうか?
その謎はグランド・エンディングにあるのですが・・・あれ?どこへ行ったかなぁ。
げ、原稿が・・・見つからない。 
しかし、こんな終わりで良かったかな。怒られそう。

 
 


荷物

船を待つ男
 
シナリオ Chapter 3(ステージ8「船を待つ男」)
1、波止場。港の倉庫の前。海猫の鳴き声。
2、今日もMr.ロングホーンと愛犬が座っている。
3、いつものようにラビが声をかける。こちらを見るMr.ロングホーン。
 
ラ ビ「こんにちは」
ロング「ラビ、おまえか。今日はわしの話を聞いてもらおうと思ったんだが、聞いてく
    れるか?」
ラ ビ「はい。聞かせてください」
ロング「遠い昔、この港でわしは海を捨ててしまった」
ラ ビ「海を捨てた?」
ロング「船乗りが陸(おか)に上がるということだ」
ラ ビ「仕事をやめてしまうってことなんですか?」
ロング「簡単に言えばまあそんなところだ。若い船乗りが初めて船に乗った時、最初に
    教えられることがあるんだ。港の女に惚れると海が嫉妬して荒れるってな。
    女に惚れられるのはいいが里心はつけるな、本気になって海を捨てた船乗りに
    何が残るんだ?女達は船乗りに憧れているだけだとね」
ラ ビ「じゃあ、船を下りたの?」
ロング「どこの港でも船乗りはもてたんだ。最初の頃は先輩の忠告もあり、クールに
    振る舞った。そう振る舞う自分に酔ってたんだ。ちょっとしたプレイボーイ
    気取りでね」
ラ ビ「それじゃあ、寂しそう」
ロング「ある日ちょいと長い航海の末、船がこの港に停泊したんだ。昔そこにあった
    酒場である女と出逢った。ふらっと入った酒場のステージで女は歌っていた
    んた。その時は別にどうって事はなかったが、他の客を意識してテーブルに
    呼んだのさ」
ラ ビ「テーブルへ?」
ロング「もちろんチップをはずむ必要はあるが、当時それが粋だったんだ。あいさつ
    代わりってのかな。もっとも港の客なんてそれほど金も持ってないから、そ
    んな事をするのは船乗りくらいなもんだった」
ラ ビ「その人は、素敵な人だった?」
ロング「最初、そうは思わなかった。しばらく話している内に、おや?この女は違う
    ぞって感じた」
ラ ビ「どんな風に?いい人だったの」
ロング「い、いい人?ま、まあそんなもんだ・・・いい人だ。その女は健気で疑うこ
    とを知らなかった。まるでおまえのようにな」
ラ ビ「け・な・げ?」
ロング「ああ。素直で一生懸命って感じだ。逆にプレイボーイ気取りの自分が恥ずか
    しかったくらいだ」
ラ ビ「それで?」
ロング「もちろん例の忠告は覚えてはいた。しかしこの女だけは違うと思ったんだ。
    いや、そう思いたかったのだろう、いまから思えば・・・」
ラ ビ「好きになった?」
ロング「わしは毎日通って話をした。そして、この女となら一緒になってもいいと
    思った。つまり船を下りるってことだ。しかし忠告の事もあって不安だっ
    た。船乗りでなくなっても彼女はついてきてくれるのだろうかと・・・」
ラ ビ「うまくいった?」
ロング「結局、自分の気持ちを伝えられないまま、とうとう明日が船出という日に
    なってしまった。わしはそれでもまだ言えんかった。わしは女に明日の出帆
    の時間を教え、大事な話があるから来てくれと告げるのが精一杯だった・・・」
ラ ビ「うーん。心配だなあ」
ロング「わしは卑怯だったのかもしれん。出帆まぎわに気持ちを伝えるつもりだった。
    だめなら、そのまま船に飛び乗ろうと考えていた」
ラ ビ「その人来たの?」
ロング「わしは待っていた。しかし出帆の時間がだんだん迫ってくるのに彼女の姿は
    見えない。船の上からは先輩達が、どうせ女は来ないから早く乗船しろと冷や
    かしながら言っていた。わしの目を覚まそうとしてな・・・」
ラ ビ「何かあったのかな?」
ロング「しかも、そんなわしの心を見透かしたように雨まで降りだす始末・・・」
ラ ビ「まだ来ないの?」
ロング「そしてとうとう出帆の時間がきてしまった」
ラ ビ「えーっ?どうして」
ロング「わたしは彼女が来ないとはどうしても思えなかった。すっかり惚れていたから
    何も見えなかった。だから最後の土壇場で彼女を待つことを決心した。きっと
    何かあって遅れているに違いないと思ったんだ」
ラ ビ「船は?」
ロング「女を選んだってことは海を捨てるということだ。わしはずぶぬれのまま大声で
    船を出すように言った。自分はここで船を降りると・・・」
ラ ビ「その人のために決心したんだね」
ロング「ゆっくりと波止場を離れる船から、船長の声が聞こえたんだ。3日後又来るか
    ら頭を冷やせって。船長もまた、女は来ないと考えているのかと思うと、わし
    のために言ってくれているのはわかっていても口惜しかった」
ラ ビ「それでどうなったの?」
ロング「続きは明日にしないかい?暗くなってもきたし・・・なあ、ズーよ」
ズー  「クーン」
ラ ビ「じゃあ、明日来ます。おやすみなさい」
ロング「ああ、おやすみ・・」
ラビ
4、しばらく思いにふけるように佇むMr.ロングホーンを後にするラビ。
5、そのまま姿が闇に溶けて行く。
6、画面がフェードアウトして、Chapter 3の終了シークエンスが表示される。

 Chapter 4へつづく。

お知らせ。
「究極の倉庫番」未発表シナリオ〜船を待つ男〜もいよいよ佳境になってきました。
なぜMr.ロングホーンは、ここで佇んでいるのか?彼の身の上に何があったのか?
そしてラビくんは来るのか?全てが明らかになる最終話をお楽しみに。 
なお、最終話は「除夜の鐘」が鳴り終わると同時にアップします。 



 
 


倉庫番の歴史には伝説ともいうべき倉庫職人達がいる。
キラ星のごとく才能を見せた彼らのことを私は決して忘れない。
すでに30年以上経った今、彼らはどのようにしておられるのか。 
その多くは会ったことも無い人たちだ。
彼らの作った倉庫面とそのタイトルが唯一の接点だったが、そこから伝わる人間性によって彼らは私の古い友人であり、かけがえの無い同志だと思っている。 
思い出の酒場があるとしたら、夜更けに一人、また一人と集まるに違い無い。
『やあ、いまどうしている?』

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そんな、まだ見ぬ伝説の友人達を紹介したいと思う。

彼抜きでは語れない伝説の倉庫職人Y・S氏。
彼を語らずして倉庫番の歴史は語れない。
彼の独創的な発想で作った倉庫は、いまでも基本的なスタイルとして引き継がれている。
特に、規則正しく交互に並ぶ「市松面」や、延々と荷物を動かし続けないといけない「巡礼シリーズ」など、彼がいなかったら生まれてないだろう。
そして、大人のタイトルとウィットの効いたメッセージは語り尽くせない魅力だ。
ラグリマ
住職だったY・M氏。
近かったこともあり、面を作ったからと突然の訪問。
バンダナの似合う彼は住職。
それ以来、親しくお付き合いをさせていただいた。
私の父親の葬儀で見送ってくれたのも彼だ。
彼は、なにしろ量産タイプでいつも数十面を作って持ってくる。
量産型にありがちで一見緩い部分もあるのだが、実はそれが罠だったりする。
無駄な部分で安心させておいて、罠にはめるのだ。
それが大らかな性質からか、周到に計算しながらとぼけているのか。
今でも判らずにいる。
代表作「取るに足らない相手」のように、多方向から荷物を入れないと片付かない面が彼の真骨頂だ。
取るに足らない
伝説の職人達でさえ一目置く完璧な職人M・I氏。
彼こそまさしく天才と呼ぶべき人物で、多くのファンを苦しめた。
謎の人物なのだが、難易度に対する取り組み方は半端では無い。
彼が作品を送ってくる面の描き方などからその几帳面さが伺え、A型の私にはとても心地がよい。
最高難度に数えられる、彼の「倉庫番の総攻撃」など全国で何人がクリアしたのだろうか?
今でも心配になるのである。
総攻撃
若き天才倉庫職人のH・K氏。
当時、高校生だった彼は授業中にも関わらず面を作って投稿してくれた。
彼の投稿用紙の余白には語り尽くせないメッセージが書かれてあり、それを読むのがスタッフの楽しみでもあった。そこに授業中であるとの告白も楽しい思い出だ。
その上彼は大変な読書家で用紙の隅に、時には裏にまで書評を書いていた。
特にミステリーが多かったように記憶しているのも、私と本の好みが近かったからかもしれない。
彼の本好きはコメントにも多く見受けられるので、きっと楽しんでもらえるだろう。
彼の推理小説好きは作る面にも表れている。
特に「最後の悪あがき短編」シリーズは珠玉の小品としてファンが多い。
悪あがき
忘れてはならない倉庫職人、エレガントな理論派H・Y氏。
彼の論理的に考えられた面は、倉庫の形といい荷物の配置といい無駄がなく美しい。
私の敬愛する田中潤司先生の言葉を借りれば、美しい面をエレガントに解くのが倉庫番の理想というあるべき姿を彼は面作りで具現しているのだ。
面を見て楽しみ、解いて楽しむ。
代表作「あやかとさとみ」のコメントから、姪っ子を可愛がる人物像が伝わって来る。
おそらく今は、そのあやかさんとさとみさんも家庭を持っておられることだろう。
この、まだ見ぬ友人はいまでもエレガントに過ごされているのだろうか。
あやかとさとみ
他にも、
卍シリーズでエンジニアらしい閃きを見せたM・T氏。
アカデミックなアプローチで倉庫番の論文を書いたY・M氏。
多くの荷物とギミックを駆使した巨大面でスタッフさえ悩ませたT・A氏。
私の愛すべき倉庫職人達は他にも枚挙にいとまが無い。
彼らの紹介はまた次の機会に譲ることにしよう。
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ガチャ。
またひとり、まだ見ぬ旧友が思い出の酒場に来たようだ。
『やあ。初めまして』
さあ、今夜はクリスマス。
30年の思い出を語り尽くそうじゃあないか。






 

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