荷物

船を待つ男
 
シナリオ Chapter 3(ステージ8「船を待つ男」)
1、波止場。港の倉庫の前。海猫の鳴き声。
2、今日もMr.ロングホーンと愛犬が座っている。
3、いつものようにラビが声をかける。こちらを見るMr.ロングホーン。
 
ラ ビ「こんにちは」
ロング「ラビ、おまえか。今日はわしの話を聞いてもらおうと思ったんだが、聞いてく
    れるか?」
ラ ビ「はい。聞かせてください」
ロング「遠い昔、この港でわしは海を捨ててしまった」
ラ ビ「海を捨てた?」
ロング「船乗りが陸(おか)に上がるということだ」
ラ ビ「仕事をやめてしまうってことなんですか?」
ロング「簡単に言えばまあそんなところだ。若い船乗りが初めて船に乗った時、最初に
    教えられることがあるんだ。港の女に惚れると海が嫉妬して荒れるってな。
    女に惚れられるのはいいが里心はつけるな、本気になって海を捨てた船乗りに
    何が残るんだ?女達は船乗りに憧れているだけだとね」
ラ ビ「じゃあ、船を下りたの?」
ロング「どこの港でも船乗りはもてたんだ。最初の頃は先輩の忠告もあり、クールに
    振る舞った。そう振る舞う自分に酔ってたんだ。ちょっとしたプレイボーイ
    気取りでね」
ラ ビ「それじゃあ、寂しそう」
ロング「ある日ちょいと長い航海の末、船がこの港に停泊したんだ。昔そこにあった
    酒場である女と出逢った。ふらっと入った酒場のステージで女は歌っていた
    んた。その時は別にどうって事はなかったが、他の客を意識してテーブルに
    呼んだのさ」
ラ ビ「テーブルへ?」
ロング「もちろんチップをはずむ必要はあるが、当時それが粋だったんだ。あいさつ
    代わりってのかな。もっとも港の客なんてそれほど金も持ってないから、そ
    んな事をするのは船乗りくらいなもんだった」
ラ ビ「その人は、素敵な人だった?」
ロング「最初、そうは思わなかった。しばらく話している内に、おや?この女は違う
    ぞって感じた」
ラ ビ「どんな風に?いい人だったの」
ロング「い、いい人?ま、まあそんなもんだ・・・いい人だ。その女は健気で疑うこ
    とを知らなかった。まるでおまえのようにな」
ラ ビ「け・な・げ?」
ロング「ああ。素直で一生懸命って感じだ。逆にプレイボーイ気取りの自分が恥ずか
    しかったくらいだ」
ラ ビ「それで?」
ロング「もちろん例の忠告は覚えてはいた。しかしこの女だけは違うと思ったんだ。
    いや、そう思いたかったのだろう、いまから思えば・・・」
ラ ビ「好きになった?」
ロング「わしは毎日通って話をした。そして、この女となら一緒になってもいいと
    思った。つまり船を下りるってことだ。しかし忠告の事もあって不安だっ
    た。船乗りでなくなっても彼女はついてきてくれるのだろうかと・・・」
ラ ビ「うまくいった?」
ロング「結局、自分の気持ちを伝えられないまま、とうとう明日が船出という日に
    なってしまった。わしはそれでもまだ言えんかった。わしは女に明日の出帆
    の時間を教え、大事な話があるから来てくれと告げるのが精一杯だった・・・」
ラ ビ「うーん。心配だなあ」
ロング「わしは卑怯だったのかもしれん。出帆まぎわに気持ちを伝えるつもりだった。
    だめなら、そのまま船に飛び乗ろうと考えていた」
ラ ビ「その人来たの?」
ロング「わしは待っていた。しかし出帆の時間がだんだん迫ってくるのに彼女の姿は
    見えない。船の上からは先輩達が、どうせ女は来ないから早く乗船しろと冷や
    かしながら言っていた。わしの目を覚まそうとしてな・・・」
ラ ビ「何かあったのかな?」
ロング「しかも、そんなわしの心を見透かしたように雨まで降りだす始末・・・」
ラ ビ「まだ来ないの?」
ロング「そしてとうとう出帆の時間がきてしまった」
ラ ビ「えーっ?どうして」
ロング「わたしは彼女が来ないとはどうしても思えなかった。すっかり惚れていたから
    何も見えなかった。だから最後の土壇場で彼女を待つことを決心した。きっと
    何かあって遅れているに違いないと思ったんだ」
ラ ビ「船は?」
ロング「女を選んだってことは海を捨てるということだ。わしはずぶぬれのまま大声で
    船を出すように言った。自分はここで船を降りると・・・」
ラ ビ「その人のために決心したんだね」
ロング「ゆっくりと波止場を離れる船から、船長の声が聞こえたんだ。3日後又来るか
    ら頭を冷やせって。船長もまた、女は来ないと考えているのかと思うと、わし
    のために言ってくれているのはわかっていても口惜しかった」
ラ ビ「それでどうなったの?」
ロング「続きは明日にしないかい?暗くなってもきたし・・・なあ、ズーよ」
ズー  「クーン」
ラ ビ「じゃあ、明日来ます。おやすみなさい」
ロング「ああ、おやすみ・・」
ラビ
4、しばらく思いにふけるように佇むMr.ロングホーンを後にするラビ。
5、そのまま姿が闇に溶けて行く。
6、画面がフェードアウトして、Chapter 3の終了シークエンスが表示される。

 Chapter 4へつづく。

お知らせ。
「究極の倉庫番」未発表シナリオ〜船を待つ男〜もいよいよ佳境になってきました。
なぜMr.ロングホーンは、ここで佇んでいるのか?彼の身の上に何があったのか?
そしてラビくんは来るのか?全てが明らかになる最終話をお楽しみに。 
なお、最終話は「除夜の鐘」が鳴り終わると同時にアップします。